奨学金の人的保証制度を利用する場合、連帯保証人・保証人の選任が必要です。
本記事では、奨学金保証制度の種類や保証人になるリスク、トラブルを防ぐ方法、トラブルが起きた場合の対処法などについて詳しく解説します。
奨学金を利用される学生の皆様や保証人になることを検討されているご親族の方は、ぜひご参考にしてください。
奨学金の連帯保証人・保証人とは

奨学金の人的保証制度を利用する際には、連帯保証人と保証人の選任が必要です。
連帯保証人・保証人とは、奨学生が奨学金の返還を延滞した場合に、奨学生に代わって奨学金を返還する義務がある人を指します。連帯保証人と保証人は、奨学生に代わって返済する義務があるという点に相違はありませんが、負担する責任の重さが異なります。
以下では、その大きな違いや選任条件をご紹介します。
連帯保証人と保証人は責任・権利に大きな違い
連帯保証人と保証人では、分別の利益・催告の抗弁権・検索の抗弁権の有無が異なり、負う責任や権利に違いがあります。
連帯保証人と保証人の違いは以下のように整理することができます。
項目 | 内容 | 連帯保証人 | 保証人 |
分別の利益 | 複数人の保証人が存在する場合、各保証人は債務額を全保証人に均分した負担部分のみ保証することを主張できる | × | ⚪︎ |
催告の抗弁権 | 債務者が契約した返済条件を履行できなくなった場合、債権者から保証人に対し返済を請求された時には先に債務者に返済を請求するように主張できる権利 | × | ⚪︎ |
検索の抗弁権 | 債務者が契約した返済条件を履行できなくなった場合、債権者から保証人に対し返済を請求された時には先んじて債務者の資産から差押え等の執行をするように主張できる権利 | × | ⚪︎ |
奨学金の連帯保証人の選任条件
連帯保証人は奨学生本人と連帯して返還の責任を負う人であり、原則として「父母」を選任することとなっています。
日本学生支援機構では、連帯保証人は以下の条件すべてに該当する方を選任するよう記載されています。
(1)あなた(奨学生本人)が未成年者の場合は、その親権者(親権者がいない場合は未成年後見人)であること。(2)あなた(奨学生本人)が成年者の場合は、その父母。父母がいない等の場合は、あなた(奨学生本人)の兄弟姉妹・おじ・おば等の4親等以内の親族であること。(3)未成年者及び学生でないこと。(4)あなた(奨学生本人)の配偶者(婚約者を含む)でないこと。(5)債務整理中(破産等)でないこと。(6)貸与終了時(貸与終了月の末日時点)にあなた(奨学生本人)が満45歳を超える場合、その時点で60歳未満であること。連帯保証人に「4親等以内の成年親族」でない人を選任する場合は、下記の基準・条件を満たす「返還を確実に保証できる人」にしてください。「返還誓約書」提出時に印鑑登録証明書等の書類に加えて「返還保証書」及び基準を満たす収入・所得や資産に関する証明書の提出が必要です。「返還を確実に保証できる人」とは、以下(a)~(c)いずれかの基準に該当し、書類を提出できる人です。(a)源泉徴収票、確定申告書(控)、所得証明書、年金振込通知書等(※1)
・給与所得者の場合:年間収入≧320万円
・給与所得者以外の場合:[給与所得以外+給与所得の方も含む]年間所得≧220万円
(※1 年金収入は給与として扱う)(b)預貯金残高証明書、固定資産評価証明書等
預金残高+評価額≧貸与予定総額(c)(a)と(b)の組み合わせ
(預金残高+評価額)/16年+年間収入≧320万円(※2)
(※2 所得の場合は220万円)
奨学金の保証人の選任条件
保証人は、奨学生と連帯保証人が返還できない場合に奨学生に代わって返還する人を指します。保証人は原則として「おじ・おば・兄弟姉妹等」を選任することとなっています。
日本学生支援機構では、保証人は以下の条件すべてに該当する方を選任するよう記載されています。
(1)あなた(奨学生本人)および連帯保証人と別生計であること。(2)あなた(奨学生本人)の父母を除く、おじ・おば・兄弟姉妹等の4親等以内の親族であること。(3)返還誓約書の誓約日(奨学金の申込日)時点で65歳未満であること。また、返還誓約書の提出後に保証人を変更する場合は、その届出日現在で65歳未満であること。(4)未成年者および学生でないこと。(5)あなた(奨学生本人)または連帯保証人の配偶者(婚約者を含む)でないこと。(6)債務整理中(破産等)でないこと。(7)貸与終了時(貸与終了月の末日時点)にあなた(奨学生本人)が満45歳を超える場合、その時点で60歳未満であること。保証人に、「4親等以内の成年親族」でない人、または65歳以上の人のいずれか(または両方)に該当する人を選任する場合は、奨学生本人及び連帯保証人と別生計で下記の基準・条件を満たす「返還を確実に保証できる人」にしてください。「返還誓約書」提出時に印鑑登録証明書等の書類に加えて「返還保証書」および基準を満たす収入・所得や資産に関する証明書の提出が必要です。必ず事前に、基準を満たしていることを収入・所得や資産に関する証明書により確認してください。「返還保証書」を提出することができない場合や、基準を満たす収入・所得や資産に関する証明書を提出することができない場合は、「別人物を選任する」か「機関保証制度」を選択してください。「返還を確実に保証できる人」とは、以下(a)~(c)いずれかの基準に該当し、書類を提出できる人です。(a)源泉徴収票、確定申告書(控)、所得証明書、年金振込通知書等(※1)
・給与所得者の場合:年間収入≧320万円
・給与所得者以外の場合:[給与所得以外+給与所得の方も含む]年間所得≧220万円
(※1 年金収入は給与として扱う)(b)預貯金残高証明書、固定資産評価証明書等
預金残高+評価額≧貸与予定総額(返還残額)の2分の1(c)(a)と(b)の組み合わせ
(預金残高+評価額)/16年+年間収入≧320万円(※2)
(※2 所得の場合は220万円)
保証人になるリスク

奨学生の保証人になることには、様々なリスクが伴います。
今回紹介する、奨学生の保証人が直面する可能性のあるリスクは以下のとおりです。
【奨学金の保証人になるリスク】
- 返済の催促が来る可能性がある
- 返済できない場合は裁判上の争いになる可能性がある
- 主債務者が自己破産すると、保証人に一括請求がされる
それぞれについて順に解説していきます。
返還の督促が来る可能性がある
奨学生の奨学金返還が滞った場合、奨学金の団体やその団体が委託した債権回収会社等から連帯保証人・保証人に対して返還の督促が来ます。
なお、日本学生支援機構の電話による督促は、以下のような形で行われるとされております。
【日本学生支援機構の電話による督促の場合】
- 日本学生支援機構の職員の他に、業務を委託した債権回収会社から行う場合がある
- 電話をする時間帯は、平日、休日ともに9時~21時
- 事前に承諾を得ている場合や、自宅・携帯番号の登録がない等、他に連絡を取る方法がない場合には、本人の勤務先に電話をすることがある
自宅へ電話がかかるだけでなく、場合によっては、勤務先へ連絡が来る可能性もあるので注意して下さい。
参照元:督促 | JASSO
返還・支払ができない場合は裁判上の争いになる可能性がある
奨学生が奨学金を返還できず、保証人も支払いに応じない場合、以下のような法的措置が取られる可能性があります。
【裁判所への支払督促申立〜強制執行までの流れ】(日本学生支援機構の場合)
- 支払督促予告
- 支払督促申立
- 仮執行宣言付支払督促申立
- 強制執行(財産の差し押さえなど)
なお、支払督促以降の手続きにかかった費用は返還者の負担となります。
参照元:人的保証 | JASSO
主債務者(奨学生)が自己破産すると、連帯保証人や保証人への一括請求の可能性がある
主債務者(奨学生)が自己破産した場合、連帯保証人や保証人が一括請求を受ける可能性があります。
自己破産は借金の返済を免除する制度ですが、免除されるのは自己破産を申し立てた本人の返済義務のみです。
そのため、連帯保証人や保証人は返済を免除されず返済義務は残ってしまいます。
奨学金の保証人トラブルを防ぐ方法

奨学金の保証人トラブルは、事前の知識を持っておくことで、リスクを軽減することは可能です。
今回解説する奨学金の保証人トラブルを防ぐ方法は以下のとおりです。
【奨学金の保証人トラブルを防ぐ方法】
- 安易に連帯保証人・保証人にならない
- 主債務者の返済計画や返済能力を確認する
- 機関保証を検討してもらう
それぞれについて以下で順に解説していきます。
安易に連帯保証人・保証人にならない
保証人を頼まれた際に、リスクや不安が残る場合は無理に引き受けないことが大切です。
どんなに奨学生と親しい関係にあるとしても、必ず返還できるとは限りません。
奨学金の保証人になるリスクを自身で整理し、保証人を引き受けるべきか判断しましょう。
主債務者の返済計画や返済能力を確認する
奨学金の返済が滞り、知らないうちに督促が届くなどのリスクを避けるためにも、奨学生が奨学金の返還を開始したら、返済計画や返済能力を確認しておくことは重要でしょう。
また、場合によっては返還額が奨学生の収入額に見合っているかを確認し、月々の返還額を調整するよう提案するといったことも必要です。
機関保証も検討してもらう
日本学生支援機構などの奨学金団体では、人的保証以外の選択肢として機関保証があります。
機関保証とは、個人の連帯保証人・保証人の代わりに日本学生支援機構が指定する保証機関の連帯保証を受ける制度を指します。
主債務者に対して機関保証の利用を提案してみても良いでしょう。
奨学金の保証人トラブルが起こった際の対処法

奨学金の返還を延滞した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
延滞が発生した場合の対処法は以下のとおりです。
【奨学金返還を延滞した場合の対処法】
- 奨学金の減額・猶予制度を使う
- 主債務者に任意整理を検討してもらう
順に解説していきます。
奨学金の減額・猶予制度を使う
奨学生の奨学金の返還が困難になった場合、奨学金の減額・猶予の制度を利用すると良いでしょう。
日本学生支援機構の場合、減額返還制度、返還期限猶予や在学猶予があります。
それぞれの制度の概要は以下のとおりです。
制度名 | 概要 |
減額返還制度 | 経済困難、傷病、災害等、奨学金の返還が困難になった場合、毎月の返還額を2分の1、3分の1、4分の1、3分の2に減額し、減額返還適用期間に応じた分の返還期間を延長する制度 |
返還期限猶予 | 経済困難、傷病、災害等、奨学金の返還が困難になった場合、返還期限を猶予する制度 |
在学猶予 | 奨学金の貸与終了後も大学、短期大学、大学院、高等専門学校、専修学校の高等課程または専門課程に在学する場合(進学・留年等)に、返還期間を猶予する制度 |
奨学金の返還が難しくなった場合、上記の制度をあらかじめ申請することで延滞を防げる可能性があります。
各制度の詳細は日本学生支援機構のホームページをご確認ください。
主債務者に任意整理を検討してもらう
奨学生が奨学金以外にも借金を抱えている場合、任意整理を検討してもらうことも良いでしょう。
任意整理とは、当事者同士が借金の返済条件を直接交渉する手続きを指し、他の債務整理と異なり、返済期間や返済額などの交渉が柔軟に対応できる可能性があります。任意整理で奨学金以外の借金負担を減らすことで、奨学金返還を延滞するリスクを下げられるかもしれません。
まとめ
本記事では、奨学金の保証人になるリスクやその防止方法、トラブルの対処法などを解説しました。
保証人・連帯保証人ともに、奨学生の奨学金返還が滞った場合にはさまざまなリスクがあり、引き受ける際にはしっかりと検討することが重要です。また、万が一奨学金のトラブルが発生した場合には、減額・猶予制度の利用や任意整理の検討など、様々な対処法があります。一人で対処するのが難しい場合には、専門家に相談するなどして、適切に対処するようにしましょう。