奨学金返済支援制度とは?注目されている背景やメリット、デメリットを徹底解説

奨学金返済支援制度とは?注目されている背景やメリット、デメリットを徹底解説

奨学金の返済に悩む若手社員を支援する「奨学金返済支援制度(奨学金返還支援制度)」が注目を集めています。

この制度は従業員の奨学金返済を企業が支援するもので、人材確保や定着率向上に効果があると言われています。国の仕組みとしては、企業が日本学生支援機構(JASSO)へ直接送金する「代理返還」が2021年に始まり、2026年3月末時点で全国4,852社が利用するまでに拡大しました。

本記事では、奨学金返済支援制度の仕組みと税制上の扱い、従業員・企業それぞれのメリット・デメリット、自治体の返還支援との違いまで詳しく解説します。

目次

奨学金返済支援制度(代理返還)とは

奨学金返済支援制度は、従業員の奨学金返済を企業が肩代わりする福利厚生制度です。このうちJASSOの「代理返還」は、企業等が奨学金の返還残額の一部または全額を、従業員に代わってJASSOに直接送金する制度で、2021年4月から利用できるようになりました。送金は毎月の口座振替または払込用紙で行われます。

企業が従業員の奨学金返済を支援する方法には、大きく2つがあります。

  1. 代理返還:企業がJASSOへ直接送金する
  2. 手当支給:奨学金返済手当などとして従業員に支給し、従業員が返還する

このうち代理返還には税制・社会保険上の利点があります。

  • 従業員側:直接送金される支援額は所得税が非課税となり、社会保険料の負担が軽減される可能性があります(手当として給与に上乗せする方式では、給与として課税対象になります)
  • 企業側:支援額は給与として損金算入でき、「賃上げ促進税制」の対象にもなります

(出典:JASSO 企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度代理返還制度検索サイト

利用企業数は制度開始当初の2021年の320社から、2026年3月末時点で4,852社へと急拡大しています。支援額や期間、対象者の条件は企業ごとに異なるため、詳細は各社の規定を確認してください。

奨学金返済支援制度が注目されている背景

奨学金返済支援制度が注目を集めている背景には、以下のような社会的要因があります。

【奨学金返済支援制度が注目を集めている背景】

  • 奨学金利用者の多さ:高等教育の費用が高止まりする中、多くの学生が奨学金を利用して進学しています。
  • 返済負担の問題:卒業後の所得によっては、奨学金の返済が家計の重荷になるケースがあります。
  • 人材確保競争の激化:少子高齢化による労働人口の減少に伴い、企業間の人材獲得競争が激しくなっています。優秀な人材を確保するため、福利厚生の充実が求められています。
  • 若手社員の定着率向上:新入社員の早期離職が問題となる中、奨学金返済支援制度は若手社員の定着率向上に効果があると期待されています。
  • 自治体にも広がる支援:企業だけでなく、地方への就職・移住を条件に自治体が返還を支援する取り組みも、47都道府県・876市区町村(2025年6月1日時点・内閣官房調べ)まで広がっています。

これらの背景から、奨学金返済支援制度は企業と従業員の双方にとって有益な制度として注目を集めているのです。

(出典:内閣官房 地方公共団体における奨学金返還支援取組状況(令和7年6月1日時点)

従業員にとってのメリット・デメリット

奨学金返済支援制度は、従業員にとって大きなメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。

以下では、従業員の視点からこの制度のメリットとデメリットを詳しく解説します。

従業員にとってのメリット

【奨学金返済支援制度の従業員にとってのメリット】

  • 経済的負担の軽減:奨学金の返済負担が減るため、毎月の生活に余裕が生まれ、住宅ローンや結婚・出産などのライフイベントの計画が立てやすくなります。
  • 税負担なしで支援を受けられる(代理返還の場合):企業がJASSOへ直接送金する代理返還では、支援額が所得税非課税となり、同額を給与で受け取るより手取りベースで有利です。
  • 早期の返済:支援を受けることで通常より早く返済を終えられる可能性があり、完済後の家計の自由度が高まります。
  • モチベーションの向上:企業からの支援を受けることで、会社への帰属意識や仕事へのモチベーションが高まる効果も期待できます。

従業員にとってのデメリット

「支援が受けられるなら入社しよう」と決める前に、デメリットと注意点も網羅的に確認しておきましょう。

【奨学金返済支援制度の従業員にとってのデメリット】

  • 退職・転職で支援が終わる:支援はその企業に在籍していることが前提です。転職すれば残りは自分で返すことになり、キャリア選択の心理的な足かせになる可能性があります。
  • 勤続年数などの条件がある場合がある:「入社◯年目から」「◯年以上の勤続を想定」など、企業ごとに対象者・支援開始時期の条件が設けられていることがあります。
  • 早期退職時の返金規定がある場合がある:制度によっては、一定期間内に退職した場合に支援済み額の返還を求める規定を置く企業もあります。就業規則・制度規程は必ず確認しましょう。
  • 支援額・期間に上限がある:全額を最後まで肩代わりしてもらえるとは限りません。月額・総額・支援年数の上限は企業により異なります。
  • 給与体系への影響:支援を福利厚生費として設計する代わりに、基本給や他の手当が抑えられていれば、昇給・賞与・退職金の算定に影響する可能性があります。給与全体のパッケージで比較することが大切です。
  • 手当支給型では課税される:奨学金返済手当として給与に上乗せする方式の場合、所得税・住民税や社会保険料の対象となり、手取りの増加は額面より小さくなります。
  • 返還義務者は本人のまま:代理返還を利用しても、JASSOに対する返還義務者は本人です。企業の業績悪化や制度廃止で支援が止まれば、残額は自分で返還します。返還が苦しくなった場合は、JASSOの減額返還・返還期限猶予といった制度も併せて検討してください(詳しくは奨学金の返し方は?)。
  • 対象外の同僚との不公平感:奨学金を利用していない・返済済みの社員には恩恵がないため、社内の給与バランスに関する議論の対象になることがあります。

企業にとってのメリット・デメリット

奨学金返済支援制度は、企業にとっても様々なメリットとデメリットがあります。以下では、企業の視点からこの制度のメリットとデメリットを詳しく解説します。

企業にとってのメリット

【奨学金返済支援制度の企業にとってのメリット】

  • 優秀な人材の確保:奨学金返済支援制度を導入することで企業の魅力が向上し、新卒者や若手人材の採用競争で有利になります。JASSOの検索サイトに掲載されることで、就活生への訴求にもつながります。
  • 従業員の定着率向上:経済的支援により従業員の満足度や帰属意識が高まり、離職率の低下が期待できます。とくに入社後数年以内の若手社員の定着に効果があるとされています。
  • 税制上の優遇:代理返還による支援額は給与として損金算入でき、「賃上げ促進税制」の対象にもなります。
  • 企業イメージの向上:若手の経済的負担に向き合う姿勢が、採用市場や取引先からの評価・CSRの観点でプラスに働きます。

企業にとってのデメリット

【奨学金返済支援制度の企業にとってのデメリット】

  • コストの増加:支援金そのものに加え、制度設計や運用にかかる事務負担・人件費が発生します。
  • 制度設計の難しさ:支援対象者の基準、支援額・期間の設定、途中退職時の扱いなど、公平で持続可能な制度設計には多くの検討が必要です。
  • 従業員間の不公平感:奨学金を利用していない従業員や返済を終えた従業員との間に不公平感が生じ、職場の納得感を損なうリスクがあります。代替の福利厚生とのバランス設計が求められます。

企業の代理返還と自治体の返還支援の違い

「奨学金の返還を支援してもらう」方法は、企業だけではありません。就職・移住を条件に自治体が支援する制度や、JASSO自体の負担軽減制度もあります。混同しやすいので、違いを整理します。

企業の返還支援(代理返還)自治体の返還支援JASSOの減額返還・猶予
実施主体勤務先の企業等(2026年3月末時点で4,852社)47都道府県・876市区町村(2025年6月時点)JASSO
主な条件その企業に勤務していること(企業ごとの規定による)対象地域への就職・居住など(募集期間・定員がある場合も)経済困難・傷病・災害等の事由
内容返還額の一部・全額を企業が負担返還額の一部・全額を自治体が補助返還額の減額(1/2〜等)や先送り。負担が消えるわけではない
探し方JASSOの代理返還制度検索サイト(地域・業種・企業名で検索可)各自治体のサイト・JASSOの地方公共団体支援ページJASSO 奨学金の返還について

自治体の例としては、札幌圏の市町村が連携する「さっぽろ圏奨学金返還支援事業」や北海道深川市の補助事業など、地元企業への就職とセットになった制度が各地にあります(参考:北海道 道内市町村における奨学金返還支援の取組)。自治体によっては企業の制度と併用できる場合もあるため、UIターン就職を考えている人は、就職先の制度と勤務地の自治体の制度を両方確認するのがおすすめです。

制度を利用したい人がやるべきこと

  • 就活生・学生:JASSOの代理返還制度検索サイトで、志望業界・地域の導入企業を検索できます。求人票や採用ページの福利厚生欄で「奨学金返還支援」「代理返還」の記載を確認し、面接の逆質問などで支援額・期間・条件を確かめましょう。
  • 在職中の人:勤務先が制度を導入していないか、人事・総務に確認してみてください。導入企業でも申請しなければ支援が始まらないケースがあります。
  • 地方就職・移住を考えている人:勤務予定地の都道府県・市区町村の返還支援制度を調べ、募集期間や対象要件(居住年数・対象業種など)を確認しましょう。

よくある質問

Q. 支援してもらった分に税金はかかりますか?A. 企業がJASSOへ直接送金する代理返還では所得税は非課税です。一方、返済手当として給与に上乗せして受け取る方式では課税対象になります。同じ「月1万円の支援」でも手取りへの効果が変わる点に注意してください。

Q. 転職したらどうなりますか?A. 原則としてその企業からの支援は終了し、残りの返還は自分で続けることになります。早期退職時の返金規定の有無も含め、制度規程を事前に確認しましょう。

Q. 自分の会社が対象かどうかはどこで分かりますか?A. JASSOの代理返還制度検索サイトで企業名を検索できます。掲載がなくても独自の手当型支援を行っている企業はあるため、人事への確認が確実です。

Q. 企業の支援と自治体の支援は併用できますか?A. 制度によります。併用を認める自治体もあれば、他制度との重複を制限する場合もあるため、それぞれの要綱を確認してください。

まとめ

奨学金返済支援制度は、従業員の経済的負担を軽減し、企業の人材確保・定着率向上に寄与する制度です。国の代理返還の仕組みが整った2021年以降、利用企業は2026年3月末時点で4,852社まで拡大し、自治体の返還支援も47都道府県・876市区町村に広がるなど、「奨学金は自分ひとりで返すもの」という前提は変わりつつあります。

一方で、従業員にとっては退職時の支援終了・支援の上限・給与体系や課税上の扱いといった注意点があり、企業にとってもコストや制度設計・公平性の課題があります。

利用する側は「支援ありき」で判断せず、支援の条件と給与全体のパッケージを確認すること。導入する企業側は、公平性と持続可能性まで含めて設計し、導入後も定期的に効果を検証して見直しを行うことが重要です。

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執筆者

大学卒業後、金融機関にてリテール業務・法人融資業務などを経験。現在は金融・ライフスタイル領域を中心に年間1,000記事以上の記事執筆や数百万PVの金融系メディアのディレクションも行っている。

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